議題と結論
2025年3月に発表されたアメリカの雇用統計では、非農業部門雇用者数が22.8万人増加※1し、「景気は堅調」と多くのメディアが報じた。
しかし、同時期に構造的なリストラが進行し、正規雇用からパートタイムへの移行や、“雇用統計には映らない”層の増加も確認された。表面的な雇用増加の裏で起きていた「約54万人の失業からの復職未達」と「フルタイムからパートタイムへシフトした可能性のある約140万人の増加」によって、合計約194万人の雇用環境悪化の可能性があると考えられる。本レポートでは、この構造的リスクに焦点を当てて検証する。
※1 出典:BLS(米労働省)
https://www.bls.gov/news.release/empsit.nr0.htm
メディア報道の反応
以下のように、複数の報道機関が雇用の回復を強調していた:
- MarketWatch:「March jobs report snapshot: 228,000 new jobs, 4.2% unemployment rate(3月雇用統計速報:22.8万人の新規雇用、失業率4.2%)」※2
- Reuters:「米3月雇用22.8万人増で予想上回る、失業率4.2%」※3
- FNNプライム:「アメリカ3月雇用統計、就業者22.8万人増で予想大幅に上回る」※4
これらは雇用者数の増加と失業率の安定に注目する一方で、「増えた雇用の中身(フルタイムかパートか)」や「雇用増の背景となる要因」への踏み込みは見られなかった。
※2 出典:MarketWatch
https://www.marketwatch.com/livecoverage/march-2025-jobs-powell-today/card/march-jobs-report-snapshot-228-000-new-jobs-4-2-unemployment-rate-gEHn568urexQUjB4MIp2
※3 出典:Reuters
https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/3AGEOXNVWNI6DHJZBBYCWGS3JA-2025-04-04/
※4 出典:FNNプライム
https://www.fnn.jp/articles/-/853236
違和感と問い
2025年3月には、連邦政府職員21万人以上を含む大規模なリストラ(合計27万5,240人)が実施された※5。
また、2025年3月の米国全体のリストラ数は約27.5万人で、前年同月の約9万人から205%と大きく増加している※6。
それにもかかわらず、雇用統計では雇用者数が増加したと報じられた。
また、3月の平均時給は前月比で0.3%上昇(2月:35.89ドル → 3月:36.00ドル)したとされる※7。
しかし、この平均時給の上昇は「リストラやパートタイムへの切り替えなどの要因によって低賃金労働者が統計から除外された結果、平均が上がっただけ」という統計上のマジックも想定される。
ここでの問いは、「これは本当に雇用が“改善”しているのか?」という点である。統計の数値だけではなく、構造の変化に注目する必要がある。
※5 出典:Challenger, Gray & Christmas, Inc.(2025年3月)
https://www.challengergray.com/blog/federal-cuts-dominate-march-2025-total-275240-announced-job-cuts-216670-from-doge-actions
※6 出典:Challenger, Gray & Christmas, Inc.
(前年3月)→ https://www.challengergray.com/blog/march-2024-job-cuts
(2025年3月)→ https://www.challengergray.com/blog/federal-cuts-dominate-march-2025-total-275240-announced-job-cuts-216670-from-doge-actions
※7 出典:BLS 表B-3
https://www.bls.gov/news.release/empsit.t19.htm
分析結果

| 月 | 就業率(%) | 前月比(pt) |
|---|---|---|
| 2025年1月 | 60.1 | – |
| 2025年2月 | 59.9 | -0.2 |
| 2025年3月 | 59.9 | ±0.0 |
この推移からは、2月にかけて就業率が低下し、3月も改善の兆しが見られなかったことがわかる。
就業率の停滞は安定ではなく、1月から2月の就業率の低下からの回復が実現されていないということで、本質的には安定ではなく、失業者が再雇用にたどり着けていないことを示している。この0.2%の低下は、その月の労働可能人口(約2億7,268万人)を基にすると、約54万人が職を失ったことを意味する。そして、再雇用にたどり着けていない労働可能人口が約54万人ほどいるという状況とも読める。

| 月 | パートタイム労働者数(万人) | 前月比(万人) |
|---|---|---|
| 2025年1月 | 2,785 | – |
| 2025年2月 | 2,846 | +61 |
| 2025年3月 | 2,931 | +85 |
この“就業率が変わらないのにパートタイムだけが増える”という現象は、フルタイム雇用が減少し、その分がパートタイムに置き換えられた構造的変化を示唆している。
※就業率の表の数値 出典:BLS 表A-1
https://www.bls.gov/web/empsit/cpseea01.htm
※パートタイム労働者数 出典:BLS 表B-10
https://www.bls.gov/web/empsit/cpseea10.htm
まとめと示唆
- 1月から2月にかけて就業率は0.2pt低下し、約54万人が職を失い再雇用に至っていない可能性がある
- 就業者数の減少や減少後の停滞を背景に、1月から3月でパートタイム労働者は合計146万人増加しており、フルタイム雇用からのシフトによる“雇用の質の低下”が進行している可能性がある
この2点から導かれるのは、表面的な雇用者数の増加に対して、実態は194万人規模の“雇用環境悪化”が進行している可能性である。今後も単なる雇用者数の増減ではなく、「就業率」や「パートタイム比率の実数変化」など、構造の内訳を追うことが不可欠である。
